「奥会津編み組細工」と呼ばれる伝統工芸品をご存知でしょうか?
奥会津地方の山間部で採れる山ブドウ、マタタビ、ヒロロを素材につくられる編み組細工で、地域の人たちが生計を立てるための産業としてではなく、自分たちが日々の生活で使う道具をつくる技術として福島県三島町の人たちに根付いたものです。それが今では国が指定する伝統的工芸品になりました。
奥会津編み組細工をつくる職人さんは三島町に暮らす高齢者がほとんどなのですが、先日ニッポン手仕事図鑑の撮影のため、そのひとりにお会いし、取材をさせていただきました。それはそれは素敵な職人さんだったのですが、どのくらい素敵だったかは年明けに公開予定の映像をお楽しみいただくとして…。
僕はそのキャリアに驚きました。
60歳の定年退職まで教師として働き、そこから奥会津編み組細工の職人を志したのです。
はじめは独学。でも、全然上手くいかなかったので、地域の先輩職人に弟子入りを志願。そこから試行錯誤を繰り返し、その12年後、なんと伝統工芸士(産地固有の技術、技法を習得した職人に与えられる国家資格)に。そして今、83歳。「売れないと意味がないし、お客さんに買ってもらえることが嬉しい」と、新しい商品開発にもチャレンジし続け、後継者育成にも力を入れているのです。
繰り返しますが、職人としてのキャリアは60歳から。
僕は「生涯現役の人生と、FIRE(アーリーリタイア)の人生、どちらがいいですか?」と問われたら、瞬間的に「生涯現役!」と答えるタイプなので、素直にその生涯現役の人生を心から羨ましいと思ったし、自分自身もまだまだやれることがあるんだな、と、勇気をもらいました。「今からはじめても、もう遅い…」なんて言わず、今日からはじめる。今からはじめる。そう、60歳からだって選べる素敵な道があって、成し遂げられることがあるのです。