「『硯が好き』でなく、『硯をつくることが好き』ではないと、硯職人として続けていくことは難しい」
僕が普段から仲よくさせていただいている製硯師 青栁貴史さんが、ぽつりとおっしゃったひと言。核心をついたシンプルな言葉で、僕は思わず何度も頷きました。
仕事では、“動詞”を大事にすること。
「対象」ではなく、「行為」を好きになること。
たとえば、伝統工芸に関する仕事をやるとき、どんな「伝統工芸が好き」な人でも、伝統工芸品を“地道に”売っていくという行為を心から好きだという人でないと、販売の仕事を続けていくことは難しいし、楽しめない。あるいは後継者育成のプロジェクトにおいても、手間と時間のかかる職人さんと学生さんとのマッチングを、コツコツと汗をかける人でないと、そしてそれを楽しめる人でないと、仕事として続けていくことは難しいのです。
よく「好きなことを仕事にしたほうがいい」という声も聞けば、「好きなことを仕事にすると辛くなる」という声を聞くこともあります。
僕はそこだけだとは言い切りませんが、「対象」が好きなのか?「行為」が好きなのか? の違いは大きいと思っています。
対象が好きな人は、仕事にすると辛くなる。そう、仕事=行為が好きではないから。その反面、行為が好きな人は、仕事が楽しいのは言うまでもありません。
僕は伝統工芸という対象は好きですが、伝統工芸品をつくる行為を好きだとは言えない。でも、職人さんを応援することは、自信を持って好きだと言える。
好きを仕事にしたいなら、対象ではなく、行為が好きかを確認すること。対象が好きなだけでは、仕事を楽しく、長くは続けられないのです。