林家こん平師匠が病気になったとき、笑点メンバーが集まった場で当時の司会者だった五代目三遊亭円楽師匠は、みんなの前でこう話したそうです。
「こん平師匠の代わりに変な芸人は入れるな。(変な芸人を)入れるなら、山田クンを大喜利に入れればいい」
さらに書くと、ただの座布団運びだった山田クンは円楽師匠に「(大喜利メンバーに)悪口を言われたら、おもいっきり突き落としてしまいなさい。なんでもいいよ。自分の判断で好きにして」と言われたことで、今のスタイル(芸風)が生まれた。もっと書くと、円楽師匠が引退する最後の回の舞台袖で「山田クン、頼りにしているよ」と声をかけてもらったそうです。
スキルも経験もなかったただの座布団運びだった山田たかおさんは、最後にはここまで言わせた。そう、あの円楽師匠に。すごいことです。
なぜ、そこまで言わせる人になれたのか?
本心は円楽師匠にしかわからないことですが、山田さんは笑点の六代目の座布団運びに起用されたとき、話すことが下手くそだったコンプレックスを克服するために鈴々舎馬風師匠に弟子入り(鈴々舎鈴丸という落語家さんなのです)して、落語を1から学びはじめたそうです。さらに、お辞儀の仕方や歩き方を学ぶために日本舞踊も習いはじめた。司会者が変われば、座布団運びも変わると言われていた笑点で、その仕事がいつまで続くかわからない。でも、山田くんは“本気で動いた”のです。
「山田くんを入れればいい」
「自分の判断で好きにして」
「頼りにしているよ」
最後に任せられるのは、本気で動ける人なのです。そこを誰もが見ている。
自分にチャンスが回ってこなくて、別の誰かにチャンスがいってしまったという経験は、誰にでも1度はあるはずです。もしかしたらそれは、本気になれていない自分を見透かされているだけかもしれない。僕はそう考えるようにしています。おそらく円楽師匠もそうだと思いますし、僕自身もチャンスを与える側になってみてわかることですが、最後に任せたいのはスキルのある人ではなく、“本気になれる人”なのです。