有名な話ですが…。
私が尊敬する小山薫堂さんがある日、学長を務める東北芸術工科大学でこんな授業を行いました。
薫堂さんはカレーを入った鍋を用意し、「このカレーをつくったのは、この人です」と、いわゆる“普通のおばちゃん”を教室に招きました。
“おばちゃん”は「どうも、鈴木です」と挨拶しただけで、あとは薫堂さんの「このカレーのポイントは?」という質問に、「こうやってニンジンを入れて〜、市販のカレールーを使って〜」と、食材やつくり方について、淡々と答えていくだけ。
だから当然、薫堂さんの「では、このカレーを食べたい人?」という問いかけにも、学生たちは(ランチ後だったこともあり)ひとりも手を挙げませんでした…。
で、ここからが本題。
薫堂さんは突然、「では、少し息子さんのことを聞いてみましょう」と、カレー以外の質問をはじめます。
薫堂さん「息子さんは何をやっているんですか?」
“おばちゃん”「野球ばっかりやっているんです」
薫堂さん「どちらにいらっしゃるんですか?」
“おばちゃん”「アメリカにいます」
薫堂さん「息子さんのお名前は?」
“おばちゃん”「ありふれた名前ですけど、一朗という名前でして」
もう、おわかりですね。
この“おばちゃん”はただのおばちゃんではなく、あのイチロー選手のお母さんだったのです。
イチロー選手が「朝カレー」を毎日食べていたという話は有名ですが、その原点とも言えるカレー。薫堂さんが改めて「食べたい人、いる?」と尋ねると、当然今度は全員が「食べたい!」と手を挙げたとか。そりゃそうです。
そう、これがブランディング。
普通のカレーでも、ランチ後でも、「絶対に食べたい!」と思わせる価値を、言葉にして伝えていく。
ここまで強烈な“ひと言”は無理でも、ひとつくらいは「えっ、そうなの!? すごいね!」と、相手に興味を持ってもらえて、あなたのブランド力をグッと高める“ひと言”があるかもしれません。
でもそれは、自分ではなかなか気付かないもの。だから、仲のいい人にちょっと聞いてみてください。もしかすると、とても価値のある“ひと言”に気づかせてもらえるかもしれません。
もしなければ、これからつくっていけばいいのです。
「こんな場所に行ったことがある」
「こんなものを持っている」
「毎日、こんなことをやっている」
実はちょっとした経験が、あなたのブランド力を高めてくれたりするのです。